はじめまして。 ニューデリーの旧大使館講座を完全に民営化できるように体制を整えるのが私の役目です。 これまで世界中の大使館や領事館で行われていた日本語講座が徐々に 国際交流基金の日本文化センターに移管されたり,独立民営化されたりしてきました。 私の任務はそうした大きな流れの一部ということになります。 現在500人以上が勉強している学校を民営化するというのは経営者が入れ替わるだけだから, そんなに難しくないだろうと思われるかもしれませんが,実はそういうものでもありません。 たとえば,大使館講座といういかにも偉そうな看板がなくなることも大きな痛手です。 現在使っている大使館の敷地内の校舎を出て,修了証から大使館の名前が消えても, 「MOSAI日本語学院」が学習者を集められるだけの魅力を持っていなければ, 民営化は成功したと言えないでしょう。 また,現在はゲーテインスティチュートのドイツ語講座やアリアンフランセーズのフランス語と 同じ水準の授業料でやっていますが,今のまま採算の取れる水準まで授業料を値上げすれば, 多くの学習者が日本語をやめてドイツ語やフランス語の講座へ行ってしまうことが予想されています。 ニューデリーには他にも民間の日本語教育機関がありますが,授業料が高く,学生が集まっていません。 私たちの講座が値上げをしたら,ドイツ語や,フランス語並みの費用で日本語を勉強できる場所が, ニューデリーからなくなってしまい,日本語学習者が他の日本語教育機関ではなく, ドイツ語や,フランス語,その他の習い事に流れていってしまうと考えられているのです。 せっかく日本語を勉強したいと思ってくれた人たちの気持ちにこたえられないまま, その人たちを失っていくというのは,あまりにも残念なことだと思います。 これらの問題を解決するためには,私たちの講座を魅力的にするだけではなく, インドの若い人たちにとっての自己投資としての日本語学習の価値そのものを高めていかなければならない と,私たちは考えています。 そこで考え出されたたのがビジターセッションの大規模な導入です。 ニューデリーには約400人(1000人とも)の日本人が住み, 約1000人の日本語学習者がいます。しかし,現在その交流はほとんどありません。 教室に日本人を呼んで,学習者に日本人と直接話す機会を増やすとともに, 日本人にも日本語を学ぶインド人に触れてもらって, 彼らとの接点を広げていってもらおうというわけです。 日本人と日本語学習者のネットワークを強化することで,将来学習者にとっても, 日本人にとってもお互いにメリットのある関係を築くことができれば, 日本語を魅力的な外国語に高めていくことができるだろうと考えたのです。 この試みは昨年度から初級会話の教室などで試され,今年度から通年コースのプログラムとして 正式にカリキュラムに組み込まれました。初級のクラスではこれまで2回のセッションが実施され, 延べ100人近い日本人が教室を訪れ,学生たちとおしゃべりをして行きました。 反響は想像した以上でした。学習者からは,自信がついた, もっと頻度を増やしてほしいなどの要望が多く,講師からは普段話さない学習者がたくさん話している, 教えていない文型まで使っているなどの評価がありました。 そして日本人からは,楽しかったという感想のほか, 自分の周りにいるインド人やこれまで見てきたインド人とぜんぜん違うとか, こういう人材がいることをこれまで知らなかったなどのコメントをいただきました。 中には早速,駐在員の家族の案内役の学生を募集してくださった企業もありました。 このような形で教室の外でも交流の輪が広がり,また深まることで, インド人と日本人とのお付き合いがお互いにとって魅力的なものになっていけばと期待しています。 それと同時に,ここでの日本語教育は,単に学生に日本語を教えるだけではなく, 日本人の認識をも変え,日本人とインド人の新しいネットワーク形成を視野に入れた街づくりを 目指しているのだと思うようになりました。 ビジターセッションの後で,学生と参加くださった日本人には記述式のアンケートに答えてもらっています。 いずれ集計,分析してどこかで発表できればと思っています。 いけづ |